学生支援ハウスようこそ 設立趣旨

◕進学者の支援のために

 現在、日本では家族のもとで生活できずに児童養護施設で暮らす子どもが約3万4000人おり、そのほとんどは高校に進学しますが、高校卒業時点で施設を出て就職しています。一般家庭の高校生の大学進学率は5割を超えるようになりましたが、施設の高校生の進学率はまだ1割強(専修学校を含めても2割程度)にすぎません。また、その少ない進学者のなかでも進学先を中退する者の比率が比較的高いというのが実情で、施設出身者にとって進学先での学業の継続がいかに難しいかがうかがわれます。  

 日本における大学進学率は先進国中ではかなり低位ですが、その大きな理由として経済的な負担の大きさが挙げられます。学費ばかりでなく生活費を含めると、相当の額になりますので、ほとんどの大学生の大学生活は、その親たちの経済的負担によって支えられているというのが現実です。現在、児童養護施設の子どもの高校進学には国や自治体の助成制度ができていますが、施設出身者の大学進学についてはまだ国の助成制度がありません。大学進学に要する費用は、学費ばかりでなく、学生生活を維持するための様々な経費を含めると、到底、学生本人の努力だけではまかなえず、家族の援助に頼れない大学生は、限られた奨学金を利用しながら大変な苦労をして学生生活を送っていることになります。

◕助走期間の保障

 日本社会ではさまざまなかたちで格差の拡大が指摘されていますが、実は大学キャンパスも見えない格差社会になっています。たしかに大学生は社会の同じ年齢層のなかでは相対的に恵まれた存在ですし、キャンパスを一見しただけでは格差はわかりません。しかし、ゼミ合宿や課外授業のほか、学生生活に特有の文化、つまりコンパ・サークル活動への参加・友人づきあいなどには、一定の費用がかかります。経済的に苦しい学生は、こうした金銭的負担を避けようとする結果、キャンパス文化から疎外されることになります。大学中退の理由はさまざまですが、困窮と孤独がせっかく進学した学生の志を砕いている可能性が高いといえます。

 大学等に進学することの意味は、学業を積み学歴を得ることだけではありません。社会人として自立する前に、学生という立場で、新しい挑戦をすること、多様な経験を積むこと、友人や教員やさまざまな人々と出会うこと、自分自身に向き合うこと、それらは自分の将来を模索し道を切り開くための基礎的な力を養います。このような少しぜいたくにも見える助走の期間は誰にとっても有意義なものですが、とくに家族の条件に恵まれない若者にこそ必要なのではないでしょうか。こうした若者が途中で挫折することなく卒業を迎えられるよう、大人は全力で応援しなければならないと考えます。

 こうしたことをふまえて、私たちは、こうした学生のためのシェアハウスを設立し運営することによって、彼らの生活を支えるための活動をすることにしました。

◕若者を大切にする社会へ

 私たちは、民家をリフォームして学生のための小さなシェアハウスを設立・運営します。しかし、これは活動のほんの第一歩です。民家の活用、専門家の知恵とボランティアの力の結集、その趣意に賛同してくださる方々のご支援によって、学生支援ハウスの設立・運営のモデルを提示できるよう努めたいと思います。私たちがこうした試みを始めることで、同じような考えをもつ人々が手をつなぎ合って、こうしたハウスが必要なだけ設立されていくことを願っています。また、私たちのようなささやかな力だけでは到底足りない若者への支援が、いつか公的な制度として行われるようになることを願っています。若者を大切にしない社会に未来はありません。そういう気持ちをこめて、私たちはこの活動のために叡智を集めて頑張りたいと思います。